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  • 2012.05.25 Friday
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「Moreno Veloso Solo in Tokyo」ライナーノーツ

 

モレーノ・ヴェローゾ(19721122日、バイーア州サルヴァドール生まれ)は20088月、キャリア史上初めてとなるソロ・コンサートを、ここ日本で行なった。まずはその経緯を紹介しておこう。


日本人のブラジル移民100周年を迎えた2008年の7月から9月まで、愛知県の豊田市美術館で開催された「Blooming:ブラジルー日本 きみのいるところ」。この企画展にモレーノは「モレーノ+カシン+島袋道浩(Shimabuku)」として参加した。そのコンテンツは、かねてから交流があったベルリン在住の美術家、島袋道浩が撮影した「モレーノが沖縄の民謡酒場の舞台に立ち、ギターを弾きながらジョルジ・ベンの曲を歌う」という、なかなかにシュールな映像。そして期間中、モレーノは豊田市美術館の招きで来日し、816日と17日に館内の講堂でソロ・コンサートを行なった。


せっかく来日するのだから、東京でもソロ・ライヴが出来ないだろうか。そう考えた僕が豊田市美術館に可能性を打診したところ快諾をいただき、818日と19日の2日間、青山の老舗ブラジリアン・ライヴ・レストラン「プラッサオンゼ」での公演が実現した。


決定から本番まで1カ月しかなかったが、発表と同時に予約が殺到し、2日間とも場内は立錐の余地がない超満員状態。プラッサオンゼならではのアットホームな雰囲気と、モレーノの音楽を愛するオーディエンスの暖かなヴァイブに包まれて、シャイな性格のモレーノも終始リラックスしてさまざまな曲を歌い継ぎ、終演後は「今回の初めてのソロ・ライヴは、音楽家としてのキャリアの新しい出発点になった」と感激していた。

 

もともとモレーノと日本の縁は深い。アート・リンゼイのバンドのパーカッション奏者として初来日したのが96年で、当時の彼は幼なじみのペドロ・サー、後に "+2" のユニットを組むことになるカシンなどと、グッドナイト・ヴァルソーヴィアというエキスペリメンタル・ポップ・バンドで活動していたが、まだアンダーグラウンドな存在だった。


2000年にカシン、ドメニコとのトリオ、モレーノ+2を結成しファースト・アルバム『マキナ・ヂ・エスクレヴェール・ムジカ(タイプライター・ミュージック)』を発表。ブラジル・ネオ新世代の旗手として注目を集め、2001年にモレーノ+2で来日した。


その後、ドメニコ+2、カシン+2と続く三部作を経て2006年、モレーノ=ドメニコ=カシン+2(ペドロ・サー、ステファン・サンジュアン)として来日し、Saigenji、高野寛、小山田圭吾、嶺川貴子とも共演した。

 

2007年、akikoのリオ録音盤『ヴィーダ』にカシン、ドメニコと共に参加。同年夏にはアドリアーナ・カルカニョットとモレーノ=カシン=ドメニコのスペシャル・ユニットで来日公演を行ない、さらにakikoとのユニット(モレーノ、カシン、ドメニコ、高野寛、金子雄太)でフジ・ロックにも出演した。


このように来日回数も多く、ライヴやレコーディングで共演した日本人ミュージシャンも幅広い分野に及んでいる。これ以降も高野寛の新作『カメレオン・ポップ』に2曲、カシン、ドメニコと共に参加し(リオ録音)、2011年に発売されたコンピレーション盤『レッド・ホット・アンド・リオ2』ではアトムハート、安田寿之、フェルナンダ・タカイとのコラボレーションでアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「三月の雨」を歌った。


ブラジルでの最近の活動も紹介しておこう。"+2" の活動は、三部作とコンテンポラリー・ダンス・カンパニー、グルーポ・コルポの公演のサントラ盤『イマン』をもってひとまず完結したが、ドメニコの最新ソロ作『シネ・プリヴェ』の共同プロデューサーをつとめ、共作も行なった。アドリアーナ・カルカニョットとの共作、共演も続けている。父カエターノの『セー』以降の全作品をペドロ・サーと共同でプロデュースし、ガル・コスタの最新作(カエターノ作品集)のプロデュースも行なった。コンポーザーとしてもホベルタ・サー、ニーナ・ベッカーらの女性歌手に作品を提供し、マルチな活躍を続けている。

 

さて、201110月の来日ソロ・ツアーを記念した限定発売盤『モレーノ・ヴェローゾ・ソロ・イン・トーキョー』。2008年の来日ソロ公演の最終日、819日のライヴで、アンコールを含めて歌った30曲の中から、モレーノの多様な音楽性を感じとっていただくことを念頭に置き、同時に彼の人格と音楽の根幹をなすバイアーノ(バイーア出身者)のスピリットを伝えることに留意して、15曲を選んだ。2チャンネルのダイレクト録音で、曲ごとの音量のバランスをとった以外、加工や修正は全く行なわず、ライヴ・パフォーマンスのありのままの姿をCD化している。それでは収録曲を紹介していこう。


オープニングは、パンデイロを叩きながら歌う「ア・バージ・ド・スプレーモ(至上の基礎)」。ヒンドゥー教の聖典「バガヴァッド・ギーター」の一説をホジェーリオ・ドゥアルチがポルトガル語に訳し、モレーノが作曲した。ちなみにモレーノは、15歳の誕生日に当時カエターノのバンドのメンバーだったカルリーニョス・ブラウンからパンデイロをプレゼントされ、叩き始めたそうだ。


"このショーをドリヴァル・カイミの思い出に捧げたい" とアナウンスして歌った「ネン・エウ(私ではない)」は、816日に94歳で大往生したバイーアの音楽文化のシンボル、ドリヴァル・カイミの名曲。来日中に訃報を知って急遽、歌うことを決めた。


続いてモレーノのオリジナルが2曲。アドリアーナ・カルカニョットのアルバム『マレー』(2008年)のタイトル曲「マレー(潮)」はアドリアーナとの共作。バイーア出身のキト・ヒベイロと共作した「マイズ・アウゲン(誰か)」は、ホベルタ・サーが『なんて奇妙で素敵な一日』(2007年)で録音、ヒットした。


さて、いよいよモレーノの故郷、バイーアへ。サルヴァドールのブロコ・アフロ、オロドゥンのヒット曲「デウザ・ド・アモール(愛の女神)」は、モレーノ+2の『マキナ・ヂ・エスクレヴェール・ムジカ』で取り上げていた。重厚なパーカッション・アンサンブルに支えられた原曲から一転、メロディーの美しさを浮き彫りにしている。


ア・ベイラ・イ・オ・マール(海のほとりで)」はヴェローゾ家のルーツ、バイーア州サント・アマロで活動しているシンガー/ソングライター/ギタリスト、ホベルト・メンデスと詩人のジョルジ・ポルトゥガルの共作。モレーノの叔母、マリア・ベターニアが84年のアルバムで歌った。


再びキト・ヒベイロとの共作が2曲。「ウン・パッソ・ア・フレンチ(一歩前へ)」は、ガル・コスタが『オージ』(2005年)で録音した曲で、ガルはオーソドックスなサンバのアレンジで歌っていたが、モレーノはギターでサント・アマロに根づいた民衆文化、サンバ・ヂ・ホーダ(輪になって歌い踊るサンバ)のグルーヴを強調している。「ジャルヂン・ヂ・アラー」はモレーノが歌手勢の一翼を担うビッグバンド、オルケストラ・インペリアルの『カルナヴァル・ソ・アノ・キ・ヴェン』(2007年)に入っていた曲で、タイトルはバイーア州の美しい海岸の名前だ。


そして『マキナ・ヂ・エスクレヴェール・ムジカ』の1曲目に収められ、多くの人に深い感銘を与えた、モレーノの名刺代わりとも言える曲「セルタォン(奥地)」。父カエターノとの共作で、ガル・コスタも録音した。


流暢な日本語で歌う「おさるのナターシャ」は、友人でもある高野寛の作品。大人と子供が一緒に楽しめる知育CD『リズムであそぼう』(2005年)に収録されて評判を呼び、絵本とセットのシングルCDとしても発売された。高野さんからCDをプレゼントされたモレーノが娘のホーザちゃんに繰り返し聴かせているうちに、歌詞を覚えて歌えるようになった、というわけだ。プラッサオンゼの初日のライヴでは、高野さんが飛び入りしてこの曲をデュエットした。ちなみに現在、モレーノは二児の父。


ファンク・ポップなオリジナル曲「アリヴェデルチ(さよなら)」は『マキナ・・』で発表した。


そして本編のフィナーレで再びパンデイロを叩きながら歌う「コルポ・エシタード(奮い立つ体)」と「デウザ・ド・エバノ2(黒檀の女神2)」は、敬愛するサルヴァドールのブロコ・アフロ、イレ・アイェのレパートリーだ。ちなみに、モレーノが8歳のときに父と共作し、アルバム『コーリス、ノーミス』の中で可愛らしい歌声も聴ける曲「ウン・カント・ヂ・アフォシェー・パラ・オ・ブロコ・ド・イレー」はイレ・アイェ讃歌だった。なお「コルポ・エシタード」では、ライヴの音響エンジニアを担当した溝添賢一と、彼が所属する日本のブロコ・アフロ、バハヴェントのメンバーが自発的にコーラスをつけ、これにはモレーノも大喜びだった。


アンコールの1曲目「ヒオ・ロンジ(遠きリオ)」は『マキナ・・』で発表した曲。そして最後は再び、他界したドリヴァル・カイミの名曲「ラ・ヴェン・ア・バイアーナ(バイアーナがやってくる)」。

 

モレーノ・ヴェローゾのキャリアの新たな出発点となった、人生初のソロ・ライヴ。彼の音楽を愛する人々にとっても、モレーノの柔和な人柄を反映した温もりのある歌声を、これまで以上に至近距離で感じていただけることと思う。

                  2011.8  中原 仁/Jin Nakahara


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